レモネーコ先生どうしよう!
どうしたんだ!?
絵師さんにイラストを依頼したいんだけど、契約書の書き方が分からないよ!
以前、イラストレーター向けに契約書の書き方をまとめましたが、「発注者側の契約書の書き方も知りたい!」という声が多かったです。
なので今回は、「発注書側の契約書の書き方」をまとめました!
イラストを依頼するとき、イラストレーターと契約書を交えたいと思うことがありますよね。
ですがイラストの発注に慣れていないと、契約書を作るのは難しくてトラブルにならないか不安かと思います。
ですが安心してください!イラストレーター歴4年で大手企業を含め50社以上と契約書を交わしたことのある麦田このみが、普段から発注の際によく見る契約書の雛形(テンプレート)を当記事用にまとめなおして公開します。
しかも発注者が契約書を作る場合、できるだけ発注主の有利になるように契約書を作りたいですよね。
今回は、イラストの発注者が有利になる契約書の例文を置いておきますので、ぜひコピペして参考にして下さい!
この記事を書いた人
この記事を書いた人
麦田このみ / フリーランス イラストレーター / 京都芸術大学非常勤講師
ミニキャラとマスコットキャラと女の子のイラストが得意です!
【実績】(グッズ用SDイラスト)
・株式会社ヴィレッジヴァンガードコーポレーション様
・株式会社キャラバン様
・株式会社ワーナーミュージック・ジャパン様
・趣味おえかき歴 25年~ / イラストレーター歴 5年
・Twitter(X)フォロワー4.2万人
・Instagramフォロワー5万人
イラスト依頼主が有利になる契約書の例文テンプレート
Word形式でダウンロードできます。
特に赤字にしている部分は、依頼の内容によって弄るといい部分です。
自分の「こうしたい!」と思う内容に沿って、内容を加筆したり削ったりして使ってください!
あくまでベースだから、自分の仕事に合うように大幅に編集してもいいぞ!
イラスト契約書の各条のよくわかる解説
文章が難しくて解説が必要そうな部分を、簡単に分かりやすく解説しました!
第1条 (委託)
1 本契約は、甲が乙に対して発注する、次項に定める委託業務について適用される契約であり、本契約に基づき、甲乙間で締結される委託業務に関する個別契約に適用される。
ここで契約内容の具体的な内容を表にします。
ひとつひとつの項目を文章にしてもいいのですが、表の方が見やすいのでオススメです!
2 乙は独立した営業者として本業務を甲から受託するものであり、甲乙間に何らの使用従属関係も存在しないことを確認する。
ここでは、「イラストレーターは、発注者の社員やメンバーとしての関係性を持たず、受注して制作するだけの他人同士の関係ですよ」と言っています。
3 乙は、本業務の全部又は一部を、甲の事前の書面による承諾なくして第三者に再委託してはならない。
これは、イラストレーターが例えばアシスタントさんなど別の人に勝手に仕事を渡して欲しくないことを文章にしています。
イラストレーター本人にしっかり描いて欲しいときに書きましょう。
第2条 (検品)
この条はクライアントの音信不通や納期遅れを防止するためのものです。
1 甲は乙より納入がなされた成果物を表⑤の期限内に検査し、過誤その他の瑕疵があったときは、直ちに乙に通知するものとする。この場合の修正又は再制作の費用は甲or乙の負担とする。
「依頼者はイラストレーターが納品したイラストを、あらかじめお互いで決めた契約期間内にチェックして連絡してください」と書いています。
修正が必要な時や、イチから描き直しすることになった場合の費用はどちらが持つか、イラストレーターとよく相談してくださいね。
修正も描き直しも作業時間がいるから、できるなら依頼者が修正代を負担した方がイラスト依頼を受けてもらいやすくなるぞ!
絵の技術と作業時間にお金を払う感覚だね!
2 甲は乙の本成果物の制作中の任意の判断で、乙に対し中間検査を求めることができるものとし、甲は、乙から中間検査を求められた場合、これに応じるものとする。
制作中に進捗が知りたくなった時、イラストレーターに「進捗を見せて欲しい!」と言えるようになる文章です。
基本的にはイラストレーターは依頼のイラストを描くとき、いきなり清書じゃなくてラフ(下書きのようなもの)を中間報告で見せる場合が多いので、あってもなくてもいい文章かもしれません。
第3条 (保証及び責任範囲)
この条ではイラストレーターが間違った内容で納品した場合の対応方法を書いています。
例えば、赤い目のキャラが欲しいと言ったのに、間違って青色で塗って納品されてしまった時などですね。
1 乙が甲に納品する納入物には、不良品や瑕疵がないことを甲に保証し、この保証は本著作物の納品日から1年間有効とする。
「納品してから1年までなら、イラストレーターが間違って描いた部分を修正対応してください!」ってことです。
2 納入物であるイラストが、甲の指定する仕様書に従ったものではなく、かつ、このことが乙の起因する原因によるときは、乙は、前項に基づく保証期間中は、乙の単独の費用と責任において、イラスト上の過誤の訂正・補修等を行う。
「もしイラストレーターがクライアントの依頼指示に従わなかった時は、1年の間はイラストレーターが自費(=追加報酬なし)で修正しますよ。」という意味です。
※「1年」の部分は自分の好きな日数に変えても構いません。
保証期間に関わらず、なるべく修正したい箇所は早めにチェックしてイラストレーターに連絡した方がいいね!
第4条 (危険負担)
本成果物の引き渡し以前に生じた本成果物の減失、毀損その他一切の損害は、甲の責に帰すべきものを覗いては乙の負担とする。
例えばイラストレーターが絵の制作中に、制作データを保存し忘れたり、無くしちゃったりしたときはイラストレーターの自己責任になることが書かれています。
途中でデータが無くなっても新たに制作費を渡さなくてOKになります。
あくまで制作途中の話だ!
もちろん、納品された後はちゃんとお金を払って、依頼者が自分で大切にデータを保管するんだぞ!
第5条 (権利の帰属)
この条では、誰がイラストの著作権を持つかを記載しているので大事な条です。
ここでは「甲(依頼者)or乙(イラストレーター)」どちらが著作権を持つか、お互いに話し合って契約書を編集してくださいね。
1 本著作物の著作権は甲or乙に帰属する。甲が提出された作成指示書、テキスト原稿、画像等については、甲に帰属する。
「制作したイラストの著作権は依頼者orイラストレーターにあります。」
「ただ、依頼者が『こんな感じで描いて欲しいです!』と見せた指示書や画像(依頼者が制作したもの)などの著作権は、依頼者のものです。」
という内容が記載されています。
2 制作途中に、制作案等の用途に使用して納品物として採用されなかった制作物に関する所有権及び使用権は甲or乙に帰属する。
「イラストレーターが依頼用に描いてボツになった画像の著作権は、依頼者orイラストレーターのもの」ということになります。
この条を入れることが、この契約書を書く最大のポイントになるぞ!
基本的にはイラストレーターは著作権を渡したくないことが多いよ!
でも絵を利用するときは依頼者側が著作権を持っていた方が、絵を自由に使えるんだぞ!
依頼者が著作権を持ちたい場合は、
3 乙は、甲及び甲から正当に権利を取得した者に対して、本件業務で作成した成果物について著作者人格権を行使しない。
著作者人格権を行使させない場合、イラストレーターが
- 勝手に納品した絵を一般公開する(公表権)
- 勝手に絵の制作者を名乗る(氏名表示権)
- 勝手に絵を改変する(同一性保持権)
のをNGできるということになります。
この3つをイラストレーターにして欲しくない場合にいれておきましょう。
イラストレーターは著作権を依頼者に譲渡できても、著作者人格権は誰にも渡せません。
なので依頼者がイラストレーターの著作者人格権の行使を禁止することで、トラブルを防ぐことができます。
4 乙は、事前の甲の許諾を得ることなく、自己のポートフォリオとして利用する目的かつ 必要最小限の範囲に限り、本件イラストを複製、翻案、公衆送信その他の利用をするこ とができる。ただし、甲の利益を損ねる態様で利用することはできないものとする。
イラストレーターはポートフォリオといって、作品集やカタログのようなものを使ってたくさんのイラストのお仕事を獲得しています。
ちなみに私のサイトのポートフォリオ(作品集)はこんな感じです!
【ポートフォリオを見る】
だから基本的にはイラストレーターは、納品した絵の制作者を名乗りたいと希望してくることが多いです。
イラストレーターがイラストのお仕事を獲得するには実績がとても大事で、収入にも直結するしステップアップにも繋がります。
ですがひとつ上の著作者人格権の項目で「勝手に絵の制作者を名乗る」のを禁止していましたね。
これではイラストレーターはポートフォリオが作れません。
そこで、この4つ目の項目を追加して、「ポートフォリオとして名乗るなら制作者を名乗ってもOK」という例外を記載しています。
他にも「PR用のSNS投稿」とか「PRイベント」とか、公表OKな例外があればイラストレーターと相談して記載しておこう!
むしろイラストレーターに宣伝してもらった方がいい場合もあるぞ!
イラストをAIと疑われないメリットもあるから、イラストレーターの名前は名乗ってもらうのもありだね!
第6条 (保証)
1 乙は、甲に対し、本著作物が第三者の著作権その他第三者の権利を侵害しないものであることを保証する。
2 甲が成果物に関し第三者から知的財産権の侵害を理由に苦情又は請求を受けた場合には、甲は乙に対し、その旨を通知するものとする。乙は、甲が当該第三者に支払うべき損害賠償額及び弁護士費用を負担し、当該知的財産権の侵害問題の解決に向けて甲に協力する。
これはイラストレーターが描いた絵が例えば、なにか既存の作品のイラスト(どこかからパクってきたイラスト)などではないことを保証する意味が記載しています。
第7条 (対価)
甲は、乙に対し、イラスト作成業務の対価、その他本契約に基づく一切の対価として、本報酬を支払う。
これはシンプルな内容ですが、「イラストの納品の対価に依頼者はお金を払います」と書いてあります。
第8条 (秘密保持)
1 甲及び乙は、本件業務の遂行により知り得た相手方の技術上又は営業上その他業務上の一切の情報を、相手方の事前の書面若しくは電磁的方法による承諾を得ないで第三者に開示又は漏洩してはならない。
2 前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する情報については、適用しない。
(1)開示を受けた際、既に自己が保有していた情報
(2)既に公知となっている情報
(3)正当な権限を有する第三者から適法に取得した情報
(4)相手方から開示された情報によることなく独自に開発・取得した情報
ここでは「イラストレーターは打ち合わせで得た情報や、描いているイラストについての情報を勝手に他人に話すのを禁止する」と書いています。
依頼内容の情報をリークされないための大事な条文です。
もし事前に公開されたくない情報の場合は、別途「機密保持契約書」を作るとより厳密に情報漏洩を禁止する念押しができます。(今回は割愛します。)
リークを防ぎたい場合は、そのイラストレーターのSNSなどを見て依頼内容をしゃべってしまってないかなども注意して見ておくといいぞ!
仕事の詳しい内容を公衆の場でしゃべってしまうイラストレーターは不安になるよね…
第9条 (即時解除)
乙及び甲は、以下の事由が生じた場合には、何らの通知、催告なくして本契約を解除することができる。
① 本契約に定める条項に違反し、催告したにもかかわらず14日以内に当該違反が是正されないとき
② 重大な過失又は背任行為があった場合
③ 第三者より仮差押、差押、仮処分若しくは競売の申立てを受けた場合
④ 破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算手続開始の申立てを受け、又は自ら申立てを行った場合
⑤ 解散、会社分割、事業譲渡又は合併の決議をした場合
⑥ 手形交換所の取引停止処分を受けた場合
⑦ 公租公課の滞納処分を受けた場合
⑧ その他前各号に準ずるような本契約を継続し難い重大な事由が発生した場合
ここでは「契約書の違反が14日以内に直らなかったら依頼をキャンセルできる」など、トラブル時に依頼を止められる内容が書かれています。(日付の日数は変更してOKです)
よっぽど無い内容だけど、なにかのトラブルになったときに安心できるお守りのような条文なのでいれておくといいぞ!
第10条 (反社会勢力の排除)
1 甲及び乙は、反社会的勢力に自己の名義を利用させ本契約を締結するものではないこと、並びに本契約の有効期間中、自己及び自己の役員その他実質的に経営に関与している者が、反社会的勢力でないことを保証する。
2 甲及び乙は、本契約に関し、自ら又は第三者を利用して、暴力的な要求行為、法的な責任を超えた不当な要求行為、脅迫的な言動若しくは暴力を用いる行為、又は風説の流布、偽計若しくは威力を用いた信用毀損若しくは業務妨害その他これらに準ずる行為を行わないことを保証する。
こちらはお互い反社会勢力ではないことを示す条文です。
これも該当することはほぼ無いですがいれておきましょう。
第11条 (事故処理)
本契約に基づく委託業務の遂行に支障をきたすおそれのある事態が生じた場合は、速やかに相手方連絡するとともに、乙甲協力してその解決処理にあたるものとする。
「なにかトラブルがあったらお互い連絡して解決しましょう」ってことです。
第12条 (不可抗力)
天災事変、戦争、暴動、内乱、同盟罷業、争議行動その他不可抗力により本契約の全部または一部の履行の遅延または不能が生じた場合は乙および甲は共にその責を負わないものとする。
主に災害や戦争などがあってどうしてもお仕事が遅れる場合は、お互い責任を問わないようにしましょうって意味です。
第13条 (協議)
本契約に定めのない利用態様については、乙甲別途協議の上、利用の可否、対価等につき決するものとする。
「この契約書に書いていないことは、お互い話し合いして決めましょう」という意味になります。
第14条 (存続規定)
本契約が終了した場合でも、第3条、第4条、第5条、第6条、第8条の各規定は有効に存続する。
イラストが納品されて契約が終了しても、
第3条(保証及び責任範囲)
第4条(危険負担)
第5条(権利の帰属)
第6条(保証)
第8条(秘密保持)
はずっと続きますよという内容です。
イラストの契約書が完成したらどうやって渡す?
メールで送る場合
契約書が完成したら、一番初めの甲の「印」欄にあなたの本名の認印の画像を貼りつけて、イラストレーターに内容を確認してもらいましょう!
認印の画像作成は『くいっくはんこ』様などで作ることができます。
認印が挿入できたら、Wordの文章をPDF保存して、メールで送ります。
郵送で送る場合
紙に印刷して郵送で送りたい場合は、事前にイラストレーターの本名・住所を聞いて送りましょう。
その際は契約書を印刷し、甲の「印」欄には自分の手で印鑑を押して封筒に入れて郵送してください。
これで契約書のやりとりは終了!
ここからはイラストの制作依頼のやりとりを頑張ってね!
さいごに
契約書って読んでいると眠くなるし堅苦しいので、苦手な人は多いと思います。私もとっても苦手です。
ですが言い回しが難しいだけです。中身を解読してみると意外と、ただのお願いや約束ごとを書いているだけです。
今回の記事で契約書の苦手意識をなくして、お仕事が円滑に進められるようになることを祈っております。
契約書の内容はよく確認してお仕事しよう!
▼「契約書を交わした後の、依頼の理想的な流れを知りたい!」という方はこちらをどうぞ!
▼「発注するときのイラストの予算が高いか安いか分からない…」という方向けに、イラストの料金相場表まとめました!
参考文献:藤原 唯人『著作権で迷った時に開く本 Q&A イラストレーターのための法律相談』カナリアコミュニケーションズ 2013 171ページ
当サイト『ゆるごのみ』ではイラストレーター麦田このみが、「SNSでのイラストアカウント攻略方法」「イラストのお仕事」「イラストお役立ち情報」などイラストを描くすべての人にとって有益な情報を発信していきます。
他にもあなたのお悩みや疑問にお答えする記事をたくさん用意しておりますので、よければ記事一覧からご覧くださいね!